ESSAYかぐらびと

花と暮らしをデザインする、フラワーアレンジメントサロン | Salon de Lilas(サロンドリラ)

2025.09.17

「花が一輪あるだけで、空気がやわらぐ。人の気持ちが不思議とほどけていくんです。」

そう語るのは、フラワーデザイナーの大庭麻貴さん。
子どもの頃から花に囲まれて育ち、社会に出てからも花に支えられてきたといいます。
第27回かぐらびとでは、大庭さんからこれまでの歩みと、花への想いを伺いました。 

フラワーデザイナー
大庭 麻貴 Ooba Maki

日々の制作活動と並行して、絵画やデザインの鑑賞をライフワークとしている。美術館やギャラリーで培った色彩感覚や構成の妙は、作品の色合わせや花材の組み合わせに生かす。


祖母と母の背中から学んだ“花へのまなざし”

いまの活動の原点をお聞かせください。
「物心ついたときから花は身近な存在で、一年を通じて彩りに囲まれて育ちました。祖母は自宅で生け花を教え、母は庭に季節の花を咲かせていたもので。学校から帰ると、まず庭の花に目を向け、それから祖母と生徒さんたちが楽しそうに過ごす姿を見る──そんな日常の光景に触れるたび、自然と明るい気分になったのを覚えています。」 
「花びらの重なりや色の濃淡、風に揺れる枝葉、光がつくる陰影。そうした細やかな表情に触れる時間の積み重ねが、色彩や調和を感じ取る力となり、いまの私を支えています。」 
卒業してお花の道へ?
「いえ、最初はグローバルに展開する企業に就職しました。やりがいは大きかったのですが、常に張りつめている状態。でも、家に帰り花へ目を向けると、不思議と落ち着いて。花はささやかな存在ですが、息切れしている心には大きな意味を持つのだと気づきました。自分が感じたように、花は多くの人にとっても心を和らげる支えになるのではないか──次第にそう考えるようになりまして。」

「決定的な転機となったのが、料理教室で出会ったアーティフィシャルフラワーの作品でした。まるで生花のように瑞々しく、美しい。その姿に強く心を揺さぶられ、“自分でも作ってみたい”という思いに突き動かされました。それが花の道へ進むきっかけです。」 
アーティフィシャルフラワーとはどのようなお花なのでしょうか。
「高品質な素材と技術によって生み出された高品質造花です。従来の造花というイメージとは異なり、生花と見まがうほどに瑞々しくて繊細です。季節を問わず好きな花を楽しめる点や、水やり・お手入れが不要。インテリアや贈り物、ウェディングの装飾など、さまざまなシーンで選ばれています。アーティフィシャルフラワーを知れば知るほど、本格的に学んでみたいという思いが自然と膨らんでいきました。」 
そこから専門的に学ばれたのですね。
「はい。フラワーアレンジメントの本場はやはりヨーロッパ。実際に現地で学んでみたいという思いから、短期でしたがロンドンのスクールに通いました。英語でのレッスンは正直とても大変でした。でも、その分“花の美しさは言葉を越えて伝わる”という学びにも繋がりました。」 

変化の風が、芽吹きの季節を連れてくる

第一歩はどんな形だったのでしょうか?
「まずは友人達が教室のレッスンに参加してくれました。ですが、ほどなく夫の転勤で宮崎へ。知り合いもいない土地での再出発は挑戦と模索の連続でしたが、その積み重ねがいまの教室運営にもつながっていると思います。ちょうどその時期に、アレンジメントに和のエッセンスを取り入れたいと思うようになり、生け花を本格的に学ぶべく、ある流派の門戸を叩きました。」 
学びは作品にどんな変化をもたらしましたか?
「フラワーアレンジメントは、色や形を組み合わせて空間を華やかに見せることが多いのに対し、生け花では余白の美が大切にされます。花材の向きや間合い、枝ぶりの線の美しさ──足すのではなく引くことで調和を生み出す世界です。洋のアレンジではあまり用いない伝統的な花材も、和のアレンジのときに取り入れるようになりました。思えば小さい頃。祖母の生け花と母のガーデニング、和と洋が交わるのが日常でした。その原風景が、いまの作品づくりにも生かされているのだと思います。」
特に人気の和のアレンジレッスンと、夏のスペシャルレッスン
どのタイミングで東京に?
「3年ほど経ったころですね。活動が軌道に乗ってきたタイミングで東京に戻ることになりました。」
また一からのスタートとなると、戸惑いもあったのではないでしょうか。
「宮崎でいただいたご縁は大切なものでしたので後ろ髪を引かれる思いもありましたが、その一方で、新しい挑戦に踏み出せることへの期待も膨らんでいました。東京は花材の選択肢や学べる機会が格段に多いもので。このタイミングで取り組んだのが“生花をもっと学ぶ”でした。アーティフィシャルフラワーだけでなく、生花のレッスンも行いたいという思いが芽生えたためです。東京に戻って老舗生花店に勤め、花材管理、色合わせやデザインに至るまで、現場の実務を幅広く経験しました。」
活動の拠点に神楽坂周辺を選ばれた背景には、どんな思いがあったのでしょう。
「実は神楽坂は生まれ育った地元なんですよ。だから、宮崎から戻ってくるときも“帰る場所はここしかない”と思っていました。小さい頃は、神楽坂らしい行事に胸を躍らせ、地域の方々と交流するのが楽しみのひとつでした。そうした日々のやりとりが、“あたたかいまち”という思いを自然と育んでくれたのだと思います。 大人になってからは、石畳や路地に息づく伝統文化、洗練された感性、美食のまちとしての豊かな食文化──そうした多彩な魅力を備えた場所だと、あらためて実感するようになりました。」

心に新しい色を差し込む

レッスン内容について教えていただけますか。
「アーティフィシャルフラワーを気軽に楽しみたい方から、本格的に学びたい方まで、目的に合わせたコースを用意しています。たとえば“季節を楽しむ単発レッスン”では、その時期らしいリースやアレンジメントを。“基礎から学ぶコース”では、色合わせや花材の扱い方を体系的に深めていただけます。学べる技術が少しずつ違うので、両方を受講される方もいらっしゃいます。」

「作品が完成したあとはティータイム。出来上がった作品を前に、神楽坂のお菓子を食べながら語らう交流のひとときも、ご好評いただいています。」 
子ども向けのレッスンも開かれているとか。
「はい。友人が営む塾コノユメスクールでキッズ体験教室を開いたことをきっかけに、小学校のお受験対策としてお花を学ばれるお子さんが増えました。最初は親御さんのご意向ではじめるケースが多いのですが、続けていくうちに子どもたち自身が植物に興味を持つようになり、“家でも花の話をするようになったし、食卓の花で場が和んで会話が広がった”、なんて聞いています。」
“もっと知りたい”という好奇心が自然と芽生える場になっているのですね。
「ええ。レッスンでは作品を作る楽しさに加え、子どもたちが興味を持ちやすい題材を取り入れるようにしています。親御さんからお嬢さんが将来お花の先生になりたいと言っていたと伺ったときは、とても嬉しく感じました。」 

小さな自然を、暮らしに創り出す

新たな挑戦についてお聞かせください。
「リラックスしてレッスンを受けていただけるよう、香りによる空間演出“Fragrance Experience”をはじめました。さらに、大人向けのフレッシュフラワー(生花)レッスンも準備中です。生花ならではの香りや瑞々しさに触れることで、季節の移ろいをより身近に感じていただければと思っています。また、オンラインレッスンやオンラインショップなど、場所や時間にとらわれず、花の魅力を楽しんでいただける機会を広げていきたいと考えています。」 
都会で自然に触れる機会が減るいま、花と向き合う時間をどのように捉えていらっしゃいますか。
「暮らしに花を置くことは、忙しい日常に小さな自然を取り戻すこと、でしょうか。花は心に余白をつくり、気持ちをやわらげてくれると感じています。花と向き合い、扱いを学ぶことは、自然と調和する感覚も思い出させてくれます。心を整えるだけでなく、これからの暮らしを見つめ直すきっかけにもなるのではないかと思っております。」 
花と向き合う時間は、自然の見え方を広げ、日常を豊かにしていくもの。
年を重ねても続けられる趣味であり、一生を通じた学びの入り口としての価値を秘めているのではないでしょうか。 

今回、取材にご協力いただいたのは大庭麻貴さん。
お店で会えたら「かぐらびと見ましたよ!」ってひと言、頼むな!

店舗情報

店名
Salon de Lilas(サロン ド リラ)
住所
〒162-0842 東京都新宿区市谷砂土原町
営業時間
【昼クラス】
曜日:水曜日~日曜日
時間:10:30 ~ 12:30/13:30 ~ 15:30
*レッスンにより変動あり

【夜クラス】
曜日:水曜日、金曜日
時間:19:00~
定休日
月曜日・火曜日
駐車場
公式SNS
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かぐらむら編集局

隠れた名店や話題の最新スポットを実際に訪れ、取材しています。神楽坂を知り尽くした編集局ならではの視点で、皆さまに新たな発見をお届けします!